
「マクドナルドで、目の前にいた70代の店員さんに客がアイスを投げつけた。」
しかも怒鳴りながら。
飛んできたアイスが、こっちの足元に落ちた。
店内の空気が止まった。
その瞬間、体が先に動いていた。
床に落ちたアイスを拾って、
そのまま相手に投げ返した。
「やめてください」
それだけだった。
店内の空気が、一瞬で変わった。
さっきまで怒鳴り声が響いていたのに、
一気に静かになる。
相手の女は一瞬固まって、
すぐに顔を歪めた。
「は?何すんのよ!」
でも、さっきまでの勢いとは違った。
周りの視線が、一斉にこちらに集まっていたからだと思う。
私はそれ以上何も言わなかった。
ただ、その場に立っていた。
数分後、警察が来た。
その瞬間だった。
女が急に声を張り上げた。
「この人にカップ投げられました!」
一瞬、頭が真っ白になった。
……え?
さっきまで自分がやってたのに、
一気に被害者になるつもりなのか。
空気がまた変わりかけた、その時だった。
「違いますよ」
後ろから声が上がった。
振り返ると、別の客が立っていた。
「最初に投げたのはその人です」
さらに、
「全部見てました」
「店員さんに当たってましたよね」
一人、また一人と声が重なる。
さっきまで静かだった店内が、
一気にこちら側に動いた。
女の表情が変わる。
言葉が詰まる。
視線が泳ぐ。
さっきまでの強さは、もうなかった。
警察は周囲の声を聞きながら頷いた。
そして女の方を見て言った。
「状況を確認しますので、こちらへ」
女は何か言いかけたが、
結局、何も言えなかった。
そのまま店員と一緒に、
奥へ誘導されていった。
店内は少しずつ元の空気に戻る。
さっきの騒ぎが、
嘘みたいに消えていく。
私はその場に立ったまま、
少しだけ力が抜けた。
その時だった。
あの店員さんが、小さく頭を下げた。
「ごめんなさいね」
いつも通りの、優しい声だった。
……いや、違うだろ。
謝るのはそっちじゃない。
そう思ったけど、言葉にはしなかった。
周りを見ると、
さっき声を上げていた人たちも、
何事もなかったように席に戻っている。
でも、あの瞬間だけは確かに違った。
誰も動かなかった空気が、
一気に動いた瞬間だった。
正直、怖かった。
もし誰も何も言わなかったら、
あのまま私が悪者になっていたかもしれない。
でも——
あの時、動かなかったら、
たぶんずっと後悔していたと思う。
そして思った。
見ている人は、
ちゃんと見ている。