結婚して初めてのお盆、私は夫と一緒に義実家へ行くことになった。
正直、義両親とは結婚式と挨拶で会った程度で、距離感もまだよく分かっていなかった。
出発前、義母から電話があった。
「何も用意なんていらないわよ。着替えだけ持ってきなさい」
優しい声だったので、そのまま信じてしまった。
でも少し気になって、夫と相談して、手土産にどら焼きを買って持って行った。
到着すると、すぐ仏間に案内された。
そして義母が、にこにこしながら言った。
「お盆なのに、何も用意してないの?普通はお供えくらい持ってくるものよ?」
一瞬、頭が真っ白になった。
夫が横で即座に言い返す。
「いや、母さんがいらないって言っただろ」
でも義母は全く悪びれない。
「そういうのは気を利かせるものなのよ」
空気が一気に重くなる。
その瞬間、私はふっと落ち着いた。
(あ、これ“試し”だ)
真正面から怒っても面倒になるだけだと思った。
だから、私は袋の中を見て、あるものを取り出した。
「……あ、じゃあこれでいいですか?」
そう言って、電車の中で食べていたジャガリコをそのまま仏壇に置いた。
義母も夫も、義父も一瞬で固まった。
「……え?」
部屋が完全に止まる。
その後もいろいろあった。
義母が何気なく放つ「子どもはまだ?」という言葉にも、
私は笑顔で首をかしげた。
「えー!それってドラマのセリフみたいですね!どの役ですか?」
空気がまた止まる。
食事のとき、味に文句を言われたときもそうだった。
「ちょっと薄いわね」
私は慌てたように言った。
「あっ、すみません!じゃあこれで!」
そう言って、義母の味噌汁にだけ、醤油と味噌を追加した。
周りが再びフリーズしたあと——
義母だけが、なぜか吹き出した。
「……なにそれ」
そして次の瞬間、大笑いした。
「もう降参よ」
義母は笑いながら箸を置いた。
「嫁いびりしようと思ってたのに、完全にやられたわ」
その一言で、空気が変わった。
帰り道、夫が言った。
「お前、あんなキャラだったか?」
「え?」
「母さん怒らせると思ってたのに、逆に笑ってたし」
私はとぼけた。
「たまたまですよ」
夫は納得していない顔をしていたけど、それ以上は何も言わなかった。
その後。
なぜか義母とは普通に買い物に行く関係になった。
あの時の“戦い”がきっかけだったのか、それとも別の何かだったのかは分からない。
ただひとつだけ確かなのは、
あの日、義実家の空気は一度完全にリセットされたということだった。