
「“一番後ろに置いたらダメだから”って言って、他人の席前に荷物だけ置いて消えた。」
新幹線に乗って、自分の席まで行った瞬間、私は足を止めた。
私の前が――
完全にスーツケース置き場になっていたからだ。
黒とピンクの大きな荷物が二台。
足元をふさぎ、通路側にも少しかかっている。
邪魔とかいうレベルじゃない。
普通に座れない。
すると近くにいた外国人男性が、こちらを見て言った。
「一番後ろ、ダメだから」
日本語だった。
しかもそれだけ言って、自分はなぜか隣の車両へ消えた。
……は?
後ろに置けない。
だから他人の席前に置く。
しかも本人不在。
理屈が雑すぎる。
このまま我慢したら、たぶん周りも「そういうもの」として流れる。
でも困るのは私だけだ。
私はすぐ車掌さんを呼んだ。
事情を説明すると、車掌さんは一瞬だけ
「ああ……」
という顔をした。
たぶん、初めてじゃない。
ほどなくして本人が呼び戻され、荷物の前で止まった。
車掌さんが静かに言う。
「ここはお客様の座席前です。荷物置き場ではありません。」
男性は少し不満そうな顔をした。
でも私はそこで、はっきり言った。
「“後ろがダメ”なら、次は人の席前に放置じゃなくて、確認ですよね。
」
車内の空気が一気に変わった。
さっきまで黙っていた周りの視線が、全部そっちに向く。
男性は何も言えなくなり、
結局、二台とも自分で運んでいった。
ようやく空いた足元に座りながら、私は思った。
ルールを一個守ったくらいで、
他人に迷惑かけていいわけじゃない。
私は新幹線に乗りに来ただけで、
見知らぬ荷物の管理人になりに来たんじゃない。