車検の日、私は朝一番で愛車を整備工場へ預けた。
自宅マンションの駐車場は、当然その間だけ空になる。とはいえ、契約して毎月料金を払っている私のスペースだ。まさか、そこに勝手に車を停める人間がいるとは思ってもいなかった。
夕方、買い物袋を下げて帰宅した私は、駐車場の前で足を止めた。
私の区画に、見知らぬ白い軽自動車が堂々と停まっていたのだ。
「またか……」
実は以前にも、短時間だけ無断駐車されたことがあった。管理会社に連絡しても、注意書き程度で終わる。今日はこちらの車がないから、空いていると思って停めたのだろう。
私は深く息を吐き、ひとまず管理会社へ連絡した。すぐに対応できないと言われたため、「仕方ない」と思い、写真だけ撮って部屋へ戻った。
ところが、その数十分後。
外からけたたましいクラクションの音が響いた。
驚いてベランダから覗くと、例の白い軽自動車がホーンを鳴らし続けている。近所の人たちが次々と顔を出し、ついには警察まで来ていた。
どうやら持ち主が戻ってきたらしい。だが、なぜか車の防犯装置が作動し、止め方がわからず大騒ぎになっていた。
私は管理会社からの電話で呼ばれ、現場へ向かった。持ち主の若い男は、警察官に向かって「ちょっと停めただけです」と言い訳していた。
そこで私は、撮っておいた写真と契約書の写しを静かに見せた。
「ここは私が契約している駐車場です。無断駐車ですよね」
男の顔色が一気に変わった。
警察官は淡々と事情を確認し、管理会社も正式に注意を入れた。男は何度も頭を下げ、逃げるように車を動かしていった。
私はその背中を見送りながら思った。
空いているように見える場所にも、必ず誰かの権利がある。
「仕方ない」と黙っていた私の代わりに、あの車のホーンが盛大に持ち主を呼び出してくれたのだった。