新幹線の指定席を予約していた私は、乗車後すぐに自分の座席へ向かった。
ところが、その席には小さな子どもを連れた親子が座っていた。
私は穏やかに声をかけた。
「すみません、その席、私の席なんですが。」
すると父親は少し不機嫌そうな顔で言った。
「ここは自由席ですよ。」
私は一瞬驚いたが、すぐにチケットを見せた。
「いえ、指定席です。こちらの座席番号をご確認ください。」
父親の表情が変わった。
しかし次の瞬間、
「でも子どもが寝ているんです。」
と言った。
確かに子どもは気持ちよさそうに眠っている。
起こすのはかわいそうだと思った。
それでも、その席は私が料金を支払って予約した席だ。
私は冷静に答えた。
「お気持ちは分かります。でも、この席は私が予約した席です。」
父親はしばらく黙っていた。
周囲の乗客も何となく様子を見ている。
発車時刻が近づく中、父親はようやく観念したように立ち上がった。
そして眠る子どもを抱きかかえながら席を離れた。
「わかりました。すみません。」
小さな声だったが、謝罪の言葉だった。
私は軽く会釈し、自分の席へ座った。
列車がゆっくり動き出す。
窓の外の景色が流れ始めた頃、私はようやく肩の力を抜いた。
子どもが眠っていることと、他人の指定席を使っていいことは別の話だ。
もし座りたいなら、最初から指定席を予約すればいい。
ルールは誰かを困らせるためではなく、みんなが安心して利用するためにある。
私は静かにコーヒーを飲みながら思った。
優しさは大切だ。
でも、本当に大切なのは、お互いの権利とルールを尊重することなのかもしれない。