夫が亡くなって二か月も経たない頃、長男から電話が来た。
「そろそろ相続の話をしないとな。家は俺が継ぐ。長男だから」
私は静かに聞いていた。
夫の介護中、長男はほとんど病院へ来なかった。葬儀では「片桐家長男」とだけ書かれた名刺を配り、親戚に自分の立場を見せつけていた。
一方、次男は遠方から何度も通い、葬儀の手配まで黙って支えてくれた。
ある日、長男夫婦が突然やって来た。
「同居してあげます」
嫁も笑顔で言った。
「お母さんの老後も安心ですよ」
けれど本音はすぐに見えた。
彼らは近所に「もうすぐ実家に住む」と勝手に話し、親戚には「母が長男を差別している」と言いふらしていた。
さらに嫁がカフェで友人に話しているのを偶然聞いてしまった。
「実家さえ取れれば楽になる。土地だけでも三千万以上あるし」
その瞬間、私は決めた。
もう遠慮しない。
翌日、夫が生前から付き合っていた弁護士に連絡した。
夫は遺言を残していた。
自宅と預金の大部分は私へ。
子どもたちは法定割合の現金のみ。
さらに夫は、長男夫婦には知らせていない資産まで私名義に移していた。
後日、長男夫婦を呼び、遺言書と資産管理の書類を見せた。
長男は顔を真っ赤にして叫んだ。
「母さんが親父を騙したんだろ!」
私は静かに言った。
「騙したのは誰?まだ私が生きているのに、家を取ろうとしたのは誰?」
二人は何も言えなかった。
最後は弁護士から内容証明が送られ、今後の接触はすべて弁護士を通すことになった。
夫が守ろうとしたのは家ではない。
残された私の人生だった。