
「男の子は女子トイレ入ったらダメよ!」
イオンのトイレ前で、突然そんな怒鳴り声が飛んできた。
「トイレ!」と急いで、2歳の子どもが小走りで女子トイレに駆け込んだ瞬間だった。
慌てて追いかける私の横で、知らない女性が腕を組んでこちらを睨んでいる。
「最近の親って本当に常識ないですね!」
「男の子が女子トイレにいるの、怖い人もいるんですよ!」
子どもは短く切った髪。
それだけで、男の子だと思い込んだらしい。
私はとりあえず子どもと個室に入り、用を済ませて手を洗った。
振り返ると、女性はまだこちらを睨んでいる。
本当なら「すみません」で終わらせたと思う。
でもこの日は、正直ちょっと余裕がなかった。
イヤイヤ期の2歳児と格闘した直後で、ようやくトイレに間に合ったところだったからだ。
私は思わず言った。
「2歳の子を外で待たせろって?」
女性は一瞬黙ったが、すぐ言い返す。
「でも男の子は男子トイレでしょ!常識です!」
私は小さく息を吐いた。
「それ、2歳児に言います?」
それでも女性は引かない。
「とにかく男の子は男子トイレです!」
私は子どもを呼び寄せて、その背中に手を置いた。
そして静かに言った。
「この子、女の子です。」
空気が一瞬止まった。
女性の顔が固まる。
周りで見ていた人たちも動きを止めた。
私はもう一言だけ付け加えた。
「見た目だけで怒鳴る前に、確認した方がいいですよ。」
女性は何も言えなくなり、
子どもの手を引いたまま、足早にトイレを出て行った。
さっきまであれだけ怒っていたのに、
後ろ姿はやけに小さく見えた。
そして私は思った。
さっき彼女が必死に怒っていた“男の子”は――
最初から、ただの女の子だった。