父の告別式で、私は焼香の列を見つめながら涙をこらえていた。
その静けさの中、夫の政治が耳元で笑った。
「遺産、億だろ。さっき仕事やめてきたわ。俺もうベンツ買ってきた」
隣では義母と太地まで、金の話をしている。
私は手元の数珠を握りしめ、この人たちには一円も渡さないと決めた。
私の名前は綾音。母を早くに亡くし、父と二人で生きてきた。
父は小さな工場の社長で、社員や取引先を大切にする誠実な人だった。
私は大学卒業後、父の会社で働き、そこで政治と出会って結婚した。
彼には連れ子の太地と義母がいて、最初は家族になれたと思っていた。
だが会社の業績が悪化し、父の体調も崩れると、政治たちの本性が見え始めた。
父を見下し、会社を笑い、遺産の話ばかりするようになったのだ。
私は離婚届に署名させ、「次に父を侮辱したら提出する」と告げていた。
その後、父が入院した。
病院で私は、政治と太地が「あと少しで遺産が入る」「家も会社も売ればいい」と笑っているのを聞いた。
私は弁護士に相談し、父に遺言書を作ってもらった。
財産と会社の株はすべて私へ。政治、太地、義母には一切渡さない内容だった。
そして私は離婚届も提出した。
父は一週間後、静かに旅立った。
そして告別式で、政治たちは遺産をもらえる前提で騒いだ。
私は立ち上がり、離婚が成立していること、太地とは養子縁組していないこと、遺言書も正式に残っていることを告げた。
「あなたたちには一円も渡しません」
会場は凍りつき、彼らは青ざめた。
その後、政治たちは借金とローンに追われ、買ったベンツも差し押さえられた。
仕事を辞めた政治は再就職できず、太地も大学を中退。
義母も生活に困り、三人は夜逃げ同然に消えた。
一方、私は父の会社を継いだ。
社員たちと少しずつ立て直し、工場には再び機械の音が戻った。
朝、父の写真に手を合わせ、私は静かに告げる。
「お父さん、今日も守ってみせるね」