「俺が話をつける。」
そう言い残し、一人でヤクザ事務所へ乗り込んでいった自衛官がいた。
その男の名は、咲間優一一曹。
彼が所属していたのは、空挺銃剣道部隊。
二千名を超える精鋭隊員の中から、さらに選び抜かれた猛者だけが集められる部隊だった。
訓練は極めて過酷で知られ、初日の午前中だけで脱落する隊員も珍しくない。
二年目を迎える前に大半の隊員が去っていくほどの厳しさだった。
空挺レンジャー課程を修了した屈強な隊員でさえ、半日で音を上げることもあった。
そんな場所で、咲間は生き残った。
それどころか、全自衛隊大会で何度も優勝し、圧倒的な実力者として名を轟かせていた。
やがて部隊の内外で、数々の武勇伝が語られるようになる。
歌舞伎町で絡んできたヤクザ十二人を返り討ちにした。
飲み屋でチンピラに絡まれた隊員がいた時には、事情を聞くなり静かに立ち上がり、一人でヤクザ事務所へ向かった。
そして冒頭の言葉を残し、本当に話をつけて戻ってきたという。
その苛烈さから、隊内では「悪魔軍曹」と恐れられていた。
だが、それは敵に対してだけだった。
後輩や同期からの信頼は絶大だった。
誰かが困れば先頭に立ち、危険な場面では必ず前へ出た。
隊員たちは口を揃えて言った。
「戦うなら咲間のもとがいい。」
「悪魔と同じ戦場なら、生き残れる。」
厳しさの裏に、誰よりも仲間を守る覚悟があったからだ。
そして2016年。
咲間優一は、67歳という若さでこの世を去った。
葬儀の日、会場には多くの関係者が集まった。
焼香が終わるたび、誰かが新たな武勇伝を語り始める。
話は尽きず、次から次へと伝説が飛び出した。
そのあまりのエピソードの多さに、親族や参列者が少し引くほどだったという。
それでも誰もが最後には笑っていた。
恐れられ、慕われ、語り継がれる男。
咲間優一という伝説は、死後もなお生き続けていた。