父が事故で亡くなってから、家の空気が変わった。
あのヒスばかり起こしていた母が、まるで別人のように穏やかになっていたのだ。
最初は正直、嫌な感じがした。
「こんなに急に変わるなんて、何か裏があるんじゃないか…」
私の心は疑念でいっぱいだった。
ある日、父の遺品を整理していると、古い箱の中に一冊の手帳が見つかった。
手に取ると、父が毎日書き残していた日記だった。
ページをめくるたび、父の優しさと母への気遣いが溢れていた。
些細なことで怒りがちだった母のことも、父は常に理解し、支え、手紙やメモで感謝を伝えていた。
そして最後のページに目を通した瞬間、私は凍りついた。
そこにはこう書かれていた――
「もしも私に何かあったら、母が安心して暮らせるよう、全部の準備を整えておく。財産も手続きも、彼女の心が乱れないように…」
なるほど、母の変化の理由はこれだったのか。
父が残した「安心」と「愛」の設計図が、母の心を穏やかに変えていたのだ。
涙が自然とこぼれた。
私は理解した。怒りや疑念ではなく、父の深い愛情と母の変化の理由に気づけたことで、家の中に初めて温かい光が差し込んだのだ。
あの日以来、母に声をかけるたび、優しさと感謝が自然に交わるようになった。
父はもういないけれど、その遺した愛が、家族を優しく包んでいる。