私は東京の下町育ちだった。近所の寿司屋は昔ながらの江戸前寿司の店で、大人たちは皆、寿司を手で食べていた。私もそれが普通だと思って育った。
小学生の頃。一人で遠出してみたいと言った私を、母方の伯父夫婦が大阪へ招いてくれた。
観光をした後、伯父に行きつけの寿司屋へ連れて行かれた。私はいつものように手で寿司を食べた。
すると、カウンター越しの板前が私を見て言った。
「お嬢ちゃん、箸使わんの?」
伯父が「東京の子だから」と説明すると、板前は大げさに笑った。
「はー、さすが東京の人やなぁ」「江戸っ子は違うなぁ」「東京の子は粋やねぇ」
その後も何度も言われ続けた。
居た堪れなくなった私は、箸を手に取ろうとした。すると板前はさらに笑いながら、
「無理して箸使わんでもええやん、江戸っ子なんやから」
と言った。
私は完全に食欲を失い、お茶だけ飲んでいた。だが伯父は笑っているだけで、板前と楽しそうに話していた。
伯父の家へ着いた後。
落ち込む私を見た伯母が心配してくれた。
しかし私が何も言えずにいると、伯父が寿司屋での話を面白そうに語り始めた。
そして最後に、
「こうやってイジるのが大阪やねんw 東京の人は心狭いなw」
と笑った。
その瞬間、私は伯父夫婦にも嫌悪感を抱いた。
それ以来、大学で色々な人と出会うまで、私は“大阪出身”というだけで苦手意識を持つようになった。
今では、もちろん大阪にも色々な人がいると分かっている。
それでも、あの日の寿司屋の空気だけは、今でも忘れられない。