病院の掲示板に貼られた一枚の紙を見て、私は思わず足を止めた。
そこにはこう書かれていた。
「医療従事者がおしゃれをするのは不快です。オシャレは休日にして下さい。」
それは患者からのクレームだった。
私はその病院で働く看護師だ。
数日前、外来が混み合う中、五十代くらいの女性患者に呼び止められた。
「その爪、何?」
彼女は私のネイルを見て眉をひそめた。
私は薄いベージュのネイルをしていた。病院の規定内で、業務にも問題はない。
だが女性は言った。
「患者は苦しんでるのに、あなたはおしゃれ?」
私は何も言い返さなかった。
その数日後、掲示板にその内容とほぼ同じ文章が貼られていた。
同僚は苦笑いした。
「昨日も残業4時間なのにね」
主任も言った。
「規定の範囲なら問題ない。禁止にはしない」
その日の午後、例の女性が再び現れた。
掲示板を見て腕を組みながら言った。
「まだその爪?」
その時、近くにいた年配の男性患者が静かに言った。
「看護師さんは朝からずっと働いてるの見てたよ。爪より大事なものがあるだろ」
すると他の患者も続いた。
「助けてもらえればそれでいい」
「そんなこと気にしたことない」
空気は一瞬で変わった。
女性は舌打ちして、そのまま病院を出ていった。
待合室では小さな拍手が起きた。
患者の痛みは理解する。
でも――医療従事者だって、人間なのだ。
