スーパーのレジで並んでいたときのことだった。
夕方で店内は混み、列はゆっくり進んでいた。
すると後ろから年配の女性が近づいてきて言った。
「私これだけなので、先にレジいいですか?」
手にはヨーグルトが一つ。
だが私は後ろを見た。まだ何人も並んでいる。
だから普通に答えた。
「並んでください」
女性は驚いた顔をしたが、諦めず今度は私の前の男性に頼んだ。
「これだけなんですけど、先にいいですか?」
男性は困りながらも「いいですよ」と言いかけた。
その時、私は言った。
「いいですよ。その代わり」
二人がこちらを見る。
「その方の代わりに、あなたが最後尾に並び直してください」
一瞬、空気が止まった。
私は続けた。
「先にするなら、その人の順番をあなたが引き受けるってことですよね。後ろにも並んでいる人がいますし」
すると後ろから声が上がった。
「確かに」
「順番ですからね」
空気が一気に変わった。
男性は困った顔になり、女性も気まずそうに周囲を見た。
数秒後、女性は小さく言った。
「……じゃあ、並びます」
そう言って列の最後尾へ向かった。
その後、誰も順番を抜かそうとはしなかった。
どうやら「これだけなんですけど」という必殺技は、その日で通用しなくなったらしい。