アメリカ・ワイオミング州に広がるイエローストーン国立公園。七色に輝く温泉や噴き上がる蒸気を目当てに、世界中から観光客が訪れる場所である。しかし、その美しい景色のすぐ下には、人の命を一瞬で奪うほどの危険が潜んでいた。
2016年6月、大学を卒業したばかりのマイクさんは、妹のカリンさんとともに車でイエローストーンを訪れた。幼い頃から憧れていた場所を前に、二人は興奮を隠せなかった。目的地は、園内でも特に地熱活動が激しいノリス間欠泉盆地。木道には多くの観光客が歩き、周囲には「立ち入り禁止」「木道から外れないでください」という警告看板が何度も掲げられていた。
だが、二人はより美しい写真を撮りたいという気持ちに押され、遊歩道を外れてしまう。白い湯気、青く澄んだ水面、誰もいない静かな景色。その魅力に引き寄せられるように、マイクさんは温泉の縁へ近づいた。
「少し触れるだけなら大丈夫かもしれない」
そう思った瞬間、足元の薄い地面が崩れた。
マイクさんの体は、90度を超える熱水の中へ落ちていった。カリンさんは叫び、助けようと手を伸ばしたが、激しい熱気と湯気に阻まれ近づくことすらできなかった。
必死に助けを呼ぼうとしたものの、携帯は圏外。彼女は泣きながら木道へ戻り、ようやくレンジャーに通報した。夜、救助隊は現場でマイクさんの姿を確認したが、悪天候と危険な足場のため回収は翌朝に延期された。
しかし翌朝、そこに彼の姿はなかった。残されていたのは、焦げたサンダルの一部と財布だけ。強酸性の熱水は、わずかな時間で彼の痕跡さえ奪い去っていた。
警告看板は景色を邪魔するためにあるのではない。命を守るためにある。ほんの一歩、ほんの少しの好奇心。その油断が、取り返しのつかない悲劇を招いた。