私は高橋まり子、58歳。若い頃から化粧品メーカーの研究職として働き、化粧品作りに人生を捧げてきた。
しかし30年前、私の人生は大きく崩れた。
夫のシャツに口紅が付いていたのだ。しかもそれは、私が開発に関わっているまだ世に出ていない口紅だった。
不安になった私は親友エミに相談した。だが彼女は「気にしすぎ」と笑った。
それからしばらくして、私は夫のスマホに届いたメッセージを見てしまう。
「今日もいつもの場所で待ってるね」
送り主の名前は――えっちゃん。
嫌な予感がして夫を尾行すると、待ち合わせ相手はなんと 親友のエミだった。
二人は腕を組み、エミのアパートへ入っていった。
私は覚悟を決めて部屋へ乗り込んだ。
するとベッドの布団の中から私の夫が出てきた。
「どういうこと?」
問い詰めると、エミは笑った。
「私ね、最初から彼を狙ってたの」
さらに彼女は言った。
「それに私、妊娠してるの」
夫は迷うことなく言った。
「まり子、離婚してくれ」
私は裏切りに絶望したが、二人と争うことはしなかった。
私は離婚し、ただ仕事に打ち込むことを決めた。
それから 30年。
私は美容業界のパーティーに参加していた。
そこにいたのは元夫と、元親友エミだった。
エミは得意げに言った。
「うちの娘は美容外科医で年収3000万なの。私たちの老後は安泰よ」
元夫も笑った。
「まり子は独身だろ?老後は貧乏で大変だな」
その時、秘書が私に声をかけた。
「社長、そろそろスピーチのお時間です」
二人は固まった。
秘書が説明する。
「こちらは化粧品ブランドマレルの社長です」
私が研究から立ち上げたブランドは今や美容業界で大成功していた。
さらに話題はエミの娘の勤める美容クリニックへ。
実はそのクリニックは不正や医療トラブルが発覚して提携中止になっていた。
しかも原因は――娘本人だった。
数日後、週刊誌がその不正を報道。
クリニックは炎上し、娘は姿を消した。
豪邸に住んでいたエミ夫婦も家を売り、世間から姿を消した。
数年後。
私は海外進出のため秘書とシンガポールに来ている。
私のブランドは世界へ広がろうとしていた。
かつて裏切られた過去も、今ではもう遠い出来事。
私は思う。
努力は裏切らない。
そして今日もまた誰かを美しくする化粧品を作り続けている。