夕方の帰宅ラッシュ。私はいつものように細い県道をゆっくり走っていた。前には白いメルセデス。GLCだ。
珍しい車ではないが、なぜか目につく。車間距離を保ちながら、そのまま後ろを走っていた。
やがて信号が赤になり、ベンツが止まる。その瞬間だった。
「……え?」
思わず声が出た。
ベンツの後ろのエンブレム——あの三角のマークが、パカッ と開いたのだ。
「なに今の?」
まるでスイッチが入ったようだった。私は思わず身を乗り出す。
しばらくして信号が青になる。ベンツが走り出す。すると数秒後——
パタン
今度はエンブレムが閉じた。
「え?」
見間違いじゃない。確実に開いて閉じた。私は一気に警戒した。
「もしかして……カメラ?」
最近はドラレコも多い。もしかして後ろの車を撮影しているのか。
次の信号でまた停止。そして——
パカッ
三回目だった。
今度は中に黒いレンズのようなものが見えた。
「やっぱりカメラじゃん……」
正直、少しイラッとする。その時、助手席の友人が言った。
「ねぇ、それ……挑発されてない?」
前のベンツはやけにゆっくり走り、微妙にブレーキを踏む。いわゆる“煽らせる運転”のようにも見えた。
次の信号でもまたエンブレムが開いた。さすがに我慢できず、私は窓を少し開けた。
その後ベンツは左折し、コンビニへ入る。私は迷ったが、そのまま後を追った。
運転席からスーツ姿の男が降りてくる。私は声をかけた。
「すみません。さっきエンブレム開いてましたよね」
男は少し驚いた顔をした。
「え?」
「後ろの車、撮影してるんですか?」
すると男は数秒黙り、突然吹き出した。
「違います違います」
そう言って車の後ろに回る。
「これ、バックカメラなんです」
「……え?」
男は車に戻り、操作する。すると——
パカッ
エンブレムが開き、中からカメラが現れた。
私は完全に固まる。
助手席の友人が小声で言った。
「……恥ずかしいやつ」
私は頭をかきながら言った。
「すみません、挑発されてるのかと思って」
男は笑った。
「いや、よく勘違いされます」
そして一言。
「でも、煽り運転じゃなくてよかったですね」
確かにその通りだった。もしさっき怒鳴り込んでいたら——完全に勘違い野郎だ。
車に戻ると友人が言った。
「でもさ」
「うん?」
「ベンツのあのパカパカ……」
私はうなずく。
二人同時に言った。
「ちょっとダサいよね。」
そこだけは、完全に意見が一致していた。