うちの三段式駐車場は、操作さえ守れば便利だ。しかし“規則を守る”前提が崩れると、小さな戦場になる。
発端はママ友・Aさん。最初は一度だけの無断駐車。買い物から戻ると、私の区画に見覚えのあるミニバンが停まっていた。ナンバーも車内も間違いなくAさんの車。念のため写真を撮り、LINEで穏やかに確認した。
「うちの区画に停まってたけど、間違いかな?」
返事は軽い。
「ごめーんw ちょっとだけ借りた!すぐ出すから!」
確かにその日はすぐ出た。しかし翌日から、区画はAさんの定位置になり始めた。直接注意しても、肩をすくめて笑うだけ。
「別に停めても良いじゃんw 空いてる時あるしさ」
理解した。これは“うっかり”ではない。自分の権利として使っているのだ、と。
管理会社に相談しても慎重な対応しかない。
強く出れば“面倒な人”扱いされる。子ども絡みの付き合いもあり、何度も我慢する日々。
海外転勤が決まり、引越し準備を進めながら思った。
――私たちがいなくなったら、Aさんは当然のように区画を占有するだろう。既成事実が作られれば、戻ってきたときに問題になる。
出発前日、私は淡々と作業した。車を出し、パレットを地下に格納、頑丈にロック。操作盤には「使用者不在・管理会社連絡先」を貼り、管理会社へ写真付きで報告。規約と設備に沿った、最も安全な手段だ。
翌朝、掲示板を見ると、Aさんが駐車場で立ち尽くしていた。スマホで早口に話す姿、明らかに苛立っている。声をかけず、私は静かに出発。非は一切ない。
数日後、マンションの知人から報告が届いた。Aさんは管理会社に怒鳴り込み、他人区画への無断駐車も通報され、正式警告を受けたという。ルールを軽んじる者ほど、証拠と手続きの前では脆いのだ。
さらに痛快だったのは、AさんからのLINE。
「駐車場下げっぱなしって何?使えないんだけど」
「ちょっとくらい融通きかせてよ」
私は短く返信した。
「契約区画なので、私の管理方法は規約に従っています。必要なら管理会社へどうぞ」
結局、Aさんは私の区画に停められず、別の月極を契約したと聞く。最初からそうしていれば誰も不快にならなかったのに、「別にいいじゃんw」と踏み越えた代償は大きかった。
海外の新しい街で、私は時折思い出す。パレットが地下に沈む音、ロックの手応え。派手な仕返しではない。怒鳴り返したわけでも晒したわけでもない。ただ、規約と設備の力で権利を守った――それが最も効く方法だと知った。