一人暮らしの部屋が帰宅するたびに片付いている。母でもないと分かり警察を考えた矢先、訪ねてきた相手は…
2026/06/30

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3月末から一人暮らしを始めた。

最初の違和感は、帰宅した日の玄関だった。
脱ぎ散らかしたはずのスリッパが、きちんと揃えられている。

「え……?」

気のせいだと思った。疲れているだけだと。

でも翌日も、その次の日も同じだった。

部屋に入ると、朝そのまま出していった食器が洗われている。
床に散らばっていた段ボールが、きれいに畳まれて端に寄せられている。

鍵はかけている。
貴重品もなくなっていない。

怖くなって母に電話した。

「来てないよ?」

その瞬間、背中が冷えた。

じゃあ、誰が?


しばらくして、インターホンが鳴った。

ドアを開けると、隣に住む大家の女性が立っていた。

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手にはタッパー。

「野菜も食べなきゃね。冷蔵庫、空っぽはダメよ」

中には、ほうれん草と油揚げの煮物と、きゅうりのぬか漬け。

私は思わず聞いてしまった。

「……あの、部屋、片付けてくれたのって……」

大家は悪びれもせず、笑いながら言った。

「そうそう。散らかってたからねぇ」

一瞬、言葉が出なかった。

「え……勝手に入ってるんですか?」

「鍵、合うのよねぇ。朝忙しいのは分かるけど、食器は洗わないとダメよ」


その日から、違和感は“確信”に変わった。

帰宅すると部屋は整っている。
確かに便利だ。確かに助かる。

でも、それは「知らない誰かが毎日入っている」という現実でもあった。

同僚に話すと、即答だった。

「それ、絶対ヤバいやつ。普通引っ越すよ」

やっぱりそうなのか、と少し安心した反面、

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どこかで“この快適さ”を手放したくない自分もいた。


そしてある日、仕事から帰ると、部屋の空気が少し違っていた。

いつもより丁寧に揃えられたスリッパ。
机の上に、見たことのないメモ。

「ちゃんと食べてる?」

その瞬間、またインターホンが鳴った。


ドアを開けると、大家がいつもより少しだけ真剣な顔をしていた。

「ねぇ、このままでいいと思ってる?」

その一言で、やっと気づいた。

この人は“ただ片付けている人”じゃない。


静かに、部屋の境界線が崩れていく音がした。

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