離婚を切り出そうと決めた日、私は夫の書斎で荷物を整理していた。
結婚18年。
言葉の少ない夫に、私はずっと寂しさを抱えていた。
記念日も忘れられ、泣いて話しても返ってくるのは「そうか」だけ。
もう限界だと思っていた。
ところが引き出しの奥から、病院の封筒が出てきた。
中にあったのは、余命6ヶ月の診断書。
その下には、私宛ての古いノート。
「俺が先に逝く。でもお前には幸せでいてほしい」
そこには、排水管の修理時期、税理士の連絡先、誕生日に読む手紙、泣いた夜に読む手紙まで残されていた。
夫は冷たい人じゃなかった。
言えないほど不器用な人だった。
なぜ黙っていたのか聞くと、夫は言った。
「言ったら、お前が残るから」
その一言で、18年分の孤独が崩れた。
離婚届は破った。
今、夫は余命を越えてまだ隣にいる。
今年の誕生日、初めて手紙をくれた。
「来年も祝えるように頑張る」
私は泣きながら笑った。