初出勤で渡された一杯のラーメン。元大工を笑った部長が、最後に3億円の代償を払うことになった
2026/06/22

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あの日、俺は二十年間続けた大工の仕事に区切りをつけ、大手ハウスメーカー「DQハウス」の営業として新しい人生を始めるはずだった。

「現場を知る営業になってほしい」

そう言われて入社を決めた。

ところが初出勤の日、用意されていたのは歓迎ではなかった。

「今日からだっけ?悪い悪い。まだパソコンも席も準備してなくてさ」

部長の長谷川は笑いながらそう言った。

午前中、俺は何もすることがなく、社員の仕事を見ているだけだった。

そして昼休み。

長谷川部長がカップラーメンを差し出しながら言った。

「これ、僕の好きなラーメン。鉄さんの生きた知恵への感謝の印です」

まだ何一つ仕事をしていない俺に「感謝」。

その言葉が冗談ではなく、現場上がりの人間を見下す嫌味だということくらい、すぐに分かった。

「嫌ならもういいですよ?」

そう笑われた瞬間、俺の中で何かが切れた。

「じゃあ、やめます」

「……え?」

「会社をです。本日付で退職します」

その日の午後、俺は退職届を書き、その足で以前から声をかけてもらっていたライバル会社「バストラハウス」へ向かった。

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すると社長は笑顔で迎えてくれた。

「鉄さん、お待ちしていました。あなたの現場経験が必要なんです」

初日から、自分の知識を営業提案に生かしてほしいと言われた。

同じ建築会社なのに、ここまで人の扱いが違うのかと驚いた。

俺は昔から付き合いのある職人仲間へ、「転職しました」とだけ連絡した。

ただ、それだけだった。

ところが数日後、DQハウスでは大騒ぎになっていた。

俺と長年仕事をしてきた協力会社や職人たちが、一斉に契約更新を断ったのだ。

「鉄さんがいる会社なら安心して仕事ができる。」

「現場を大事にする人についていきたい。」

そんな声が広がり、何十人もの職人がバストラハウスへ移った。

長谷川部長から何十件も着信が入っていた。

「頼む、戻ってきてくれ!今なら退職はなかったことにする!」

俺は静かに答えた。

「申し訳ありません。人を大切にしてくれる会社で働きたいので。」

職人不足に陥ったDQハウスは、五十億円規模の再開発工事が止まりかけた。

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本来なら工期延期を発注者へ相談すべきだった。

しかし長谷川部長は自分の評価が下がることを恐れ、会社にも報告せず、格安で請け負う無名の施工会社と独断で契約を結んだ。

「安く済めば利益も守れる。」

その判断が、会社を地獄へ落とすことになる。

工事は一応完成した。

だが完成から一か月後、大雨が降ると商業施設は天井から大量の雨漏り。

ブランドショップの商品は全滅。

地下駐車場では柱に無数のひび割れが見つかり、住民は避難騒ぎになった。

調査の結果、施工不良が次々と発覚。

慌てて施工会社へ連絡すると、

「この電話番号は現在使われておりません。」

会社ごと姿を消していた。

責任を逃れようと長谷川部長と部下二人は退職届を提出した。

しかし社長は冷たく言い放った。

「重大な過失による損害です。退職は認めません。本日付で懲戒解雇とし、会社が負担する損害について民事訴訟を起こします。」

数年後。

判決が下った。

長谷川元部長には約三億円。

部下二人にもそれぞれ二千万円の損害賠償命令。

さらに業界中へ情報が広まり、再就職先は一社も見つからなかった。

一方の俺は、バストラハウスで毎日忙しく働いている。

営業になって改めて分かったことがある。

家を建てるのは会社の看板じゃない。

現場で汗を流す人間への信頼だ。

それを笑った人間は、最後には会社も、自分の未来も失うことになった。

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