新幹線の車内は、連休前ということもあり、ほぼ満席だった。私は指定席の番号を確認しながら通路を進み、ようやく自分の席の前にたどり着いた。
しかし、そこには見知らぬ中年男性が足を組んで座っていた。テーブルには缶コーヒーが置かれ、まるで最初から自分の席であるかのようにくつろいでいる。
「あの、すみません。そこ、私の席だと思うんですが」
私が控えめに声をかけると、男性は面倒そうに顔を上げた。そして指定席券を見せる私を一瞥すると、いきなり声を荒げた。
「はっ!? ウルセーんだよ。若いなら立ってろ!」
車内の空気が一瞬で凍った。周囲の乗客もこちらを見るが、誰もすぐには口を出せない。私は驚きで言葉を失いかけたが、深く息を吸い、できるだけ冷静に男性を見返した。
「若いかどうかではなく、ここは私が料金を払って予約した席です。年齢で他人の権利を奪っていい理由にはなりません」
その一言に、男性の顔がみるみる赤くなった。なおも何か言い返そうとしたが、近くにいた女性客が静かに続けた。
「大声を出す元気があるなら、駅員さんが来るまで立って待てますよね」
思わず周囲から小さな笑いが漏れた。すぐに車掌が呼ばれ、男性は渋々席を立たされた。最後まで不満そうに舌打ちしていたが、もう誰も彼の味方をしなかった。
私はようやく自分の席に座り、窓の外を流れる景色を見つめた。理不尽な怒鳴り声に怯まず、当たり前のことを当たり前に伝えた女性の一言は、その場にいた人たちの胸に強く残った。