休日の午前、私は夫と一緒に予約していた美容室へ向かった。ところが出発直前、夫に急な仕事の連絡が入り、私だけが店に入ることになった。
受付で「すみません、夫の予約はキャンセルでお願いします」と伝えると、待合席にいた女性客Aがすぐに顔を上げた。
「じゃあ、その枠、私を繰り上げてください」
受付の女性は少し戸惑いながらも、「はい、ではご案内します」とAを席へ通した。私は特に気にせず、自分の施術を受けた。カットもカラーもいつも通りで、会計を済ませて店を出ようとした、その時だった。
背後からAの鋭い声が飛んできた。
「ちょっと、私の分払ってないわよ?」
私は思わず振り返った。
「はい?」
Aは当然のような顔で言った。「あなたの旦那さんの予約枠に私が入ったんだから、支払いもあなたでしょ。キャンセルした分、空いたんだから」
あまりの理屈に言葉を失った。受付も美容師も固まっていたが、店側はなぜか曖昧に笑うだけで、はっきり否定しようとしない。
私は静かにレシートをバッグへしまい、「私が予約したのは夫の枠であって、あなたの施術代ではありません。必要なら警察を呼んで確認しましょうか」と告げた。
その一言で、Aの顔色が変わった。
翌日、店の前を通ると、美容室全体が青いシートで覆われていた。近所の人の話では、以前から会計トラブルや予約管理の問題が続いていたらしい。
私の一件が、最後の引き金になったのだという。