小学生の頃、俺には気になる同級生の女の子がいた。名前は茜。家が近く、登下校も同じ班だった。明るくてよく笑う、クラスでも目立つ存在だった。
俺は茜が好きだった。だが当時の俺は、好意の伝え方が分からなかった。毎日のように話しかけ、ちょっかいを出し、反応を見るのが楽しくて仕方なかった。
そのせいで、茜は俺を露骨に嫌がるようになった。近づくだけで怒り、嫌そうな顔をする。それでも家が近いせいで、毎日顔を合わせる関係は続いていた。
そんなある朝、登校班の集合場所に現れたのは茜の母親だった。「今日はお休みするわ。待たせてごめんね」それだけ言って帰っていった。
だが、その日を境に茜は学校へ来なくなった。数日後、担任が静かに言った。「茜さんは転校しました」
突然すぎて、クラス中が騒然となった。俺も何も知らされていなかった。好きだった相手が、理由も分からないまま消えた。子どもながらに、胸に穴が空いたようだった。
それから二十年。
三十歳になった俺のもとへ同窓会の案内が届いた。真っ先に浮かんだのは茜の顔だった。
俺は親に頼んで連絡先を聞き、思い切って電話をかけた。受話器の向こうから聞こえた声は、間違いなく茜だった。同窓会の話をすると、彼女は静かに「うん」と答えた。
再会できる。そう思って迎えた当日、会場に茜の姿はなかった。
俺は冗談っぽく笑いながら言った。「俺がいるから来なかったのかなw」
その瞬間、周囲の空気が変わった。同級生が重い声で言う。「知らなかったのか。茜、白血病なんだ」
頭が真っ白になった。俺は同窓会を飛び出し、教えられた病院へ向かった。
病室の窓際にいたのは、大人になった茜だった。綺麗になっていたが、顔色は悪く、痩せていた。
話を聞いて、二十年前の転校理由を知った。白血病による長期入院だったのだ。
茜は俺を見ながら小さく言った。「毛嫌いしてたんじゃない」そして少し笑った。「好きだったから。変わった自分を見られたくなかった」
俺は言葉を失った。同窓会に来なかった理由も同じだった。好きな人に、弱った姿を見せたくなかったのだ。
その日から、俺は毎日病院へ通った。治療で髪が抜け、涙を流す日もあった。それでも俺は隣にいた。
そして長い治療の末、退院の日を迎えた。病院の玄関で、俺は茜に言った。「もう一度、最初から一緒に生きていきたい。結婚してください」
茜は泣きながら笑って頷いた。「はい」
小学生の頃、俺だけを嫌っていた女の子は、二十年後、俺の人生で一番大切な人になった。