義実家に行ったとき、出された鍋の中に見慣れない草の根のようなものが入っていた。
何か分からないまま、義母は当然のように私の器によそってきた。
断れる空気ではなく、そのまま口に入れるしかなかった。
義母は満足そうに私を見ていた。
その視線が少しだけ引っかかった。
私は何も言わず、隣にいた夫の椀へ、その具材をそっと移した。
夫は一瞬だけ顔をしかめたが、何も言わずに食べた。
その後、義母がいない場所で夫に言った。
「今の、普通じゃなかったよね」
夫は少し困った顔をしたまま視線をそらした。
「……母さんは昔からああいう感じだから」
「でも、あれってちょっと変だと思う」
「考えすぎじゃない?」
短い沈黙だけが残った。
結婚式のときも同じだった。
海外で式を挙げたいと言ったとき、義父に強く反対された。
夫も深くは踏み込まず、「こっちのやり方があるから」とだけ言った。
その時から、私は少しずつ違和感を覚えていた。
そして今回も同じだった。
義母は何も強くは言わない。
ただ、視線と沈黙で圧をかけてくる。
夫はそれを「普通」として受け流している。
私はその夜、少しだけ考えたあと、静かに言った。
「ねえ、さっきの鍋、ちょっとおかしくなかった?」
夫はすぐには答えなかった。
少し間を置いてから言った。
「……あれは、田舎だと普通だよ」
その言葉で、空気が一瞬止まった。
私は何も言い返さなかった。
ただ、翌朝、義実家を出るとき。
義母が玄関で軽く笑いながら言った。
「まあ、都会の人にはちょっと珍しいかもね」
私は一度だけ振り返って、ゆっくり言った。
「そうですね。でも次は、同じもの出すなら一言ください」
一瞬、義母の表情が止まった。
夫も横で黙っていた。
車に乗ったあと、夫がようやく口を開いた。
「……あんな言い方する必要あった?」
私は窓の外を見たまま答えた。
「じゃあ、どう言えばよかったの?」
夫は何も言えなかった。
帰り道、私は思った。
“黙ること”は優しさじゃない。
“我慢すること”は理解でもない。
少なくとも、あの家ではそうだった。
そして私は初めて、ほんの少しだけ呼吸が楽になった気がした。