お隣の夫婦が私の名前で書かれた領収書を持ってきた。夫婦「これから確定申告だっておっしゃったでしょ?その時についでにこれも落として頂いて、あとでこちらにバックしてください」
2026/06/01

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年末は毎年忙しい。

私はフリーのデザイナーとして働いていて、この時期になると仕事で使うパソコン周辺機器やソフトウェアをまとめて購入する。

その日も大型家電店で十数万円分の買い物をしていた。

マウス、外付けSSD、ソフトウェア、プリンターのインク。

レジで会計を済ませ、領収書を書いてもらっていた時だった。

ふと後ろを見ると、お隣に住むご夫婦が並んでいた。

「ずいぶん買うんですねぇ」

ご主人が驚いたように言う。

私は笑いながら説明した。

「仕事で使う物なんです。年明けに確定申告もありますし」

すると奥さんが不思議そうな顔をした。

「経費になるってやつですか?」

「そうですね。仕事用なので」

二人は感心したようにうなずいていた。

ただ、その時ご主人が言った一言が少し気になった。

「自営業の人はいいですよねぇ。そうやって買った物がお金で戻ってくるんだから」

私は軽く笑って流した。

まさか、その勘違いが数日後に大事件になるとは思ってもいなかった。

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大晦日の夕方だった。

掃除も終わり、ようやく一息ついていた時、インターホンが鳴った。

玄関を開けると、お隣のご夫婦が立っていた。

二人とも妙に上機嫌だった。

「実はですねぇ」

ご主人がニヤニヤしながら話し始めた。

「前から欲しかったパソコンを買っちゃったんですよ」

「へぇ、良かったですね」

私はそう答えた。

するとご主人は封筒から一枚の紙を取り出した。

「それでですね、これなんですが」

何気なく受け取った私は、その場で固まった。

領収書だった。

しかも宛名の欄には私の名前が書かれている。

意味が分からなかった。

私が黙っていると、ご主人は満足そうに続けた。

「ほら、この前言ってたじゃないですか。確定申告」

「だからその時についでにこれも経費で落としてもらって、あとでこちらに現金を戻してもらえればと思いまして」

数秒、本気で理解できなかった。

冗談かと思った。

だが二人とも真顔だった。

私は思わず聞き返した。

「えっと……どういう意味ですか?」

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ご主人は少し驚いた顔をした。

「いやだから、領収書があればお金戻ってくるんでしょ?」

その瞬間、私は全てを理解した。

この人たちは本気で、

「領収書さえあれば買った金額が全額返ってくる」

と思っていたのだ。

私は頭を抱えたくなった。

「違いますよ」

そう言うと、ご主人の顔が曇る。

私はできるだけ分かりやすく説明した。

経費とは何なのか。

確定申告とは何なのか。

税金が少し軽くなるだけで、買ったお金が丸ごと戻るわけではないこと。

そして他人名義の領収書を使えば問題になること。

十分ほど説明した頃だった。

ご主人は口をパクパクさせていた。

まるで酸欠の金魚みたいだった。

そして次の瞬間。

「は、話が違うじゃないですかあーー!!」

思わず私は耳を疑った。

話が違う?

誰がそんな話をしたのだろう。

私は一度も、

「パソコン代が全額返ってくる」

なんて言っていない。

むしろ勝手に勘違いしたのはそちらだ。

奥さんまで不満そうな顔をしている。

「だって経費になるって言ったじゃないですか」

私は呆れた。

経費になる。

その言葉がどうして、

「国がお金を全額返してくれる」

になるのだろう。

むしろその発想の方が怖かった。

もし本当にそんな制度があったら、誰だって好きなだけ買い物する。

私は深呼吸して言った。

「それは良かったですね」

ご主人の顔が少し明るくなる。

だが私は続けた。

「で?」

二人は黙った。

もちろん私がやることは何もない。

私は税理士でもない。

ましてや他人の買い物を自分の経費にするつもりなどない。

数分後。

夫婦は気まずそうに帰っていった。

私はドアを閉めた後もしばらく呆然としていた。

世の中には図々しい人がいる。

それは知っていた。

だが今回驚いたのは図々しさよりも、その自信だった。

自分の勘違いを一切疑わず、

他人の名前で領収書を書かせ、

当然のようにお金を受け取れると思っていた。

しかもそのご主人は誰もが知る大企業の社員で、もうすぐ五十歳になる人だった。

年齢や肩書きと常識は必ずしも比例しない。

私はその日、身をもって学んだ。

そして今でも思う。

あの時一番怖かったのは、

領収書を持ってきたことではない。

あれだけ説明した後でも最後まで、

「自分は悪くない」

という顔をしていたことだった。

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