その日、私は電車で白杖を持った女性を見かけた。
ところがその女性はスマホを操作していた。
私は単純に不思議だった。
「見えてるなら白杖なんて必要ないじゃん」
そう思ったのだ。
家に帰ると、私はその話を妻にした。
「白杖持ってるのにスマホいじってたんだよ。面白くない?」
ところが妻は全く笑わなかった。
それどころか、
「あなた、本当にそう思ってるの?」
と真顔で聞いてきた。
私は意味が分からなかった。
見えているなら白杖は必要ない。
そう説明すると、妻は静かにスマホを取り出した。
そして視覚障害についての記事を見せてきた。
そこには、全盲だけでなく、弱視や視野欠損の人も白杖を使うと書かれていた。
中心だけ見える人。
周囲だけ見えない人。
昼は見えても夜は極端に見えにくい人。
文字は拡大すれば読めても、障害物には気付きにくい人。
つまり、スマホが見えることと、安全に歩けることは全く別の話だったのだ。
私は初めて知った。
今まで白杖=全く見えない人だと思い込んでいた。
妻は最後に言った。
「知らないのは仕方ない。でも知らないまま笑い者にするのは違うと思う」
その言葉に返す言葉がなかった。
電車の中で勘違いしていたのは、白杖の女性ではなかった。
見た目だけで勝手に決めつけていた私の方だったのである。
今思えば、妻が不機嫌になった理由も分かる。
笑い話だと思っていた出来事は、実は私自身の無知をさらしていただけだったのだから。