夫が家を出て、十年が過ぎた。義母の世話を理由に実家へ行ったきり、娘の行事にも来ず、連絡もほとんどない。私は働きながら娘・春佳を一人で育ててきた。
そんなある日、両親が事故で亡くなり、遺産の整理をしていた。すると義母から電話が来た。
「相続はいくら?」
お悔やみの言葉は一つもない。娘は言った。
「きっと遺産目当てで来るよ」
一週間後、インターホンが鳴り、義母と、十年ぶりの夫が現れた。二人は勝手に家に上がり込み、豪邸の設計図を広げた。
「遺産で二世帯住宅を建てて同居しよう」
あまりの身勝手さに、娘と私は思わず笑ってしまった。
「十年放置しておいて、今さら家族?」
夫は「謝ればやり直せる」と言ったが、娘が静かに告げた。
「お母さん、五年前から離婚届用意してるよ」
私は言った。
「十年の別居は立派な離婚理由です」
義母は「三億の遺産は?」と騒いだが、実際は三人で分ける相続で現金もほとんどない。
三ヶ月後、離婚は成立した。
春から娘は一人暮らしを始め、私は正社員を目指して資格の勉強を始めた。
十年は無駄じゃなかった。
遺産より大切なのは――自由だった。