満員電車の中で、突然ひとりの女性が私の腕をつかんだ。
「この人、触りました」
その一言で、周囲の視線が一斉に私へ向いた。
私は何が起きたのか理解できなかった。
その時、私は右手でつり革を握り、左手にはビジネスバッグを抱えていた。
触れるどころか、身動きすらまともに取れない状態だった。
しかし女性は泣きそうな顔を作り、「絶対にこの人です」と繰り返した。
駅に着くと、私はそのまま警察官に連れて行かれた。
事情を説明しても、最初は誰もまともに聞いてくれなかった。
「とりあえず話は署で聞きますから」
その言葉を聞いた瞬間、私は静かにスマホを取り出した。
そして一言だけ呟いた。
「この会話、全部録音しています。車内カメラと駅の防犯カメラの保全、それから弁護士への連絡をお願いします」
空気が変わった。
女性の顔から血の気が引いた。
警察官も一瞬、言葉を失った。
さらに、近くにいた男性客が声を上げた。
「その人、ずっと両手ふさがってましたよ。
僕、隣で見てました」
続けて別の乗客も証言してくれた。
女性は震えながら、「許して……勘違いだったんです」と言い出した。
警察官も慌てたように、「大事にするのはご勘弁を……」と低い声で言った。
私は首を振った。
「勘違いで人生を壊されそうになった側は、簡単に終われません」
その後、防犯カメラの確認で私の無実は明らかになった。
女性は正式に謝罪し、虚偽の申告についても問題になった。
たった一言で人を犯罪者にできると思ったのなら、甘すぎる。
濡れ衣を着せられた瞬間こそ、冷静に証拠を残すべきだと、私はその日、身をもって知った。