新幹線の指定席車両に乗り込んだ私は、自分の座席番号を確認して足を止めた。そこには見知らぬ中年男性が、当然のような顔で座っていた。
「失礼ですが、席をお間違えではありませんか?」
できるだけ丁寧に声をかけたつもりだった。ところが男性は、こちらを一瞥しただけで面倒くさそうに鼻を鳴らした。
「ん?自由席が満席だったから、こっちに来ただけだけど」
あまりにも堂々とした返答に、一瞬言葉を失った。それでも私はスマホの予約画面を見せながら、「でも、そこは私が購入した席なので」と伝えた。
すると男性の顔つきが一変した。
「うるせーんだよ。若いなら立ってろ!それとも俺の膝にでも乗るのか?あ?」
周囲の空気が凍った。隣の乗客も顔を上げ、通路側にいた人たちもこちらを見ている。怖くなかったと言えば嘘になる。けれど、ここで黙ってしまえば、この人はきっと次も同じことをする。
私は一歩下がり、静かに車掌を呼び出した。そして男性の発言を録音していたスマホ画面を見せた。
「指定席券を持っていない方が、私の席を占有しています。さらに今、脅すような発言もされました」
それを聞いた男性は、急に声を小さくした。
「いや、冗談だろ。そんな大げさな……」
しかし車掌は表情を変えなかった。切符の確認を求められた男性は、自由席券しか持っていないことが判明した。結局、男性はその場で席を移動させられ、周囲から冷たい視線を浴びることになった。
私はようやく自分の席に座った。窓の外を流れる景色を見ながら、胸の鼓動が少しずつ落ち着いていく。
大声を出す人が強いわけではない。正しい手順で、冷静に証拠を示した人が最後に勝つのだと、その日私ははっきり知った。