会社を辞めることになった。
特別な理由があったわけではない。ただ、もう続けられないと思っただけだ。
最後の日、部署のみんなが送別会を開いてくれた。
居酒屋の個室で乾杯し、「お疲れさまでした」「次の会社でも頑張って」と声をかけられ、私は少し安心していた。
ところが、送別会の終盤。
社長と専務が席を立ち、「最後にプレゼントがあります」と花束を差し出してきた。
受け取った瞬間、違和感があった。
白と黄色の菊。明らかに葬儀で使う供花だった。
戸惑う私に、社長は笑いながら言った。
「成仏してください」
場が凍りついた。
つまり私は、もう死んだ人扱いだった。
同僚も顔を固めていたが、誰も何も言わない。
私は空気を壊せず、無理に笑って「ありがとうございます」と言うしかなかった。
だが帰りの電車で花束を見た瞬間、涙が止まらなくなった。
悔しかった。何も言えなかった自分にも、笑って言った社長にも。
それから二ヶ月。
忘れようとしても、ふとした瞬間にあの言葉がよみがえる。
「成仏してください」
思い出すたび、怒りで体が震えた。
そして私は決めた。このまま終わらせない。
人生で初めて弁護士に相談した。
話を聞いた弁護士は言った。
「これは問題があります」
私は正式に依頼し、弁護士費用を振り込んだ。
近く会社には内容証明郵便が送られる。
もし謝罪がなければ——裁判になる。
正直、そこまで行きたくはない。
でも、何事もなかったように過ごしていると思うと、どうしても許せない。
さて、
あの二人はこの内容証明を見て、どんな顔をするのだろうか。