座席に座った瞬間、
私は小さく息を止めた。
前の男性の座席が、
異常なくらい倒れていたからだ。
しかも、
机にはノートパソコン。
画面を開き、
完全に“仕事モード”。
その瞬間、
私のスペースはほぼ消えた。
膝元には荷物。
前からは背もたれ。
完全に挟まれている。
私は一度深呼吸した。
「まぁ……
少しの間だけなら」
そう思おうとした。
でも無理だった。
男性がキーボードを打つたび、
座席が小刻みに揺れる。
しかも、
背もたれが近すぎて、
肩にも圧迫感がある。
スマホすら持ちにくい。
机を出すスペースもない。
なのに前の男性は、
まるで個室にいるみたいに作業を続けている。
カタカタカタカタ——
キーボード音。
画面の光。
時々、
オンライン会議みたいな小声。
周囲も少しピリついていた。
でも、
誰も何も言わない。
こういう時、
結局“我慢した人負け”になる。
私はスマホを取り出した。
座席番号。
車両番号。
状況。
全部記録した。
さらに、
座席の倒れ具合も撮影。
もし後で説明するなら、
証拠は必要だと思った。
その時点で、
私はもう決めていた。
——今回は黙らない。
私は呼び出しボタンを押した。
数秒後、
乗務員さんが来る。
正直、
かなり緊張した。
でも、
もう後には引けなかった。
私は静かに説明した。
「前の方が座席をほぼ全倒しにした状態で、
パソコン作業をされていて、
後方のスペースがかなり圧迫されています」
乗務員さんは、
最初は柔らかく対応した。
「少し座席を戻していただけますか?」
でも男性は、
ほぼ反応しない。
チラッとこちらを見ただけ。
しかも、
少しだけ戻したあと、
また普通に作業を再開した。
私はスマホを見せた。
「この状態です」
写真。
座席番号。
圧迫された距離。
それを見た瞬間、
乗務員さんの表情が変わった。
再度、
かなり真剣な口調で注意。
すると男性は、
明らかに不機嫌そうな顔をしながら、
ようやく座席を戻した。
パソコン位置も少し変更。
空気が変わった。
でも——
まだ終わっていなかった。
男性は時々こちらを見てくる。
無言。
でも、
完全に“圧”だった。
私は少し怖かった。
でも同時に、
変な安心感もあった。
ちゃんと行動してよかったって。
もし黙っていたら、
たぶん最後まで我慢していた。
公共の場って、
「言ったもん勝ち」
になることがある。
でも逆に、
何も言わなければ、
無神経な人は止まらない。
私は荷物を整理しながら、
静かに背もたれへ寄りかかった。
ようやく、
普通に座れる。
その瞬間、
小さく思った。
——我慢ばかりしてる側が、
ずっと正しいわけじゃない。
ちゃんと記録して、
ちゃんと伝える。
それだけで、
空気は変わるんだって。