嫁が、いつの頃からか俺とのスキンシップを避けるようになった。
手を伸ばせばさりげなく離れ、隣に座れば用事を思い出したように立ち上がる。最初は疲れているのだろうと思っていたが、そんな日が何週間も続くと、さすがに胸の奥に黒い疑念が湧いた。
「男でも出来たのか……」
口には出さなかったが、俺の態度も次第に冷たくなっていった。嫁もそれに気づいていたのだろう。ある夜、風呂場の前で突然、弱々しく笑った。
「今日、一緒にお風呂に入ろう」
久しぶりの言葉に、俺は戸惑いながらも「おう」と返した。
湯気の中、嫁はしばらく黙っていた。そして、背を向けたままバスタオルを落とした瞬間、俺は言葉を失った。
背中から腰にかけて、大きなあざのような痕が広がっていたのだ。
「転んだって言った日、実は階段から落ちたの。病院で検査したら、骨にも異常が見つかって……触られるのが怖かった」
嫁は震える声で続けた。
「心配かけたくなくて黙ってた。でも、あなたが疑ってるのも分かってた」
その瞬間、自分の浅はかさに顔が熱くなった。裏切っていたのは嫁ではない。何も聞かず、勝手に疑った俺のほうだった。
俺は湯気の中で頭を下げた。
「ごめん。ちゃんと話を聞けばよかった」
嫁は泣きながら笑い、「これからは隠さない」と言った。
その日から俺たちは、夫婦として初めて、本当の意味で向き合い始めた。