私が不倫していたことを、夫は最後まで責めなかった。
ある夜、夫は静かに離婚届を差し出し、「離婚しよう。養育費と慰謝料として一括で三千万円を出す。子供にも、もう会わない」と言った。
私は驚いたふりをしながら、内心では笑いが止まらなかった。面倒な争いもなく、大金まで受け取れる。しかも不倫相手とはすでに再婚の話まで出ていた。
「円満離婚ってことね」
そう思い、私は迷わず判を押した。
離婚後、私は不倫相手と暮らし始めた。最初の数週間は幸せだった。だが、三千万円があると知った彼は少しずつ態度を変えた。仕事を辞め、生活費を私に任せ、子供のことにも興味を示さなくなった。
そして半年後。
口座の残高はほとんど消えていた。不倫相手は「やっぱり子持ちは重い」と言い残し、私の前から姿を消した。
慌てて元夫に連絡すると、電話の向こうの声は冷たかった。
「もう君とは他人だ。子供に会わないと言ったのも、君が望んだ生活を邪魔しないためだ」
さらに私は知った。夫は離婚前からすべて気づいていた。不倫の証拠も、私が金目当てで離婚に応じることも。
三千万円は、夫が子供の将来のために残した最後の情だった。
それを食いつぶしたのは、誰でもない私自身だった。