夫が降格人事を告げられた日、私はショックを受けながらも、明るく励ました。
けれど翌日から、夫の八つ当たりは全部私に向いた。
「太ったよな」「醜すぎる」「一緒の家族と思われたくない」
そう言って夫は私を無視し始め、同居の姑まで便乗して嫌味を重ねた。
食事では唐揚げを取り上げられ、私はサラダと煮物しか食べられなくなった。
耐えきれなくなった私は、娘の彩音に実家へ戻ろうかと漏らした。
すると彩音は、「私もお母さんについていく」と言ってくれた。
そして降格人事が本格的に始まる前夜、夫は急に愛想よく「たまにはみんなで晩酌しよう」と言い出した。
不審に思いながらも、私は夫が作ったというワインサワーの匂いをそっと確かめた。
その瞬間、私は気づいた。
そこに、以前私が料理に使った激辛調味料「地獄の一滴」の匂いが混じっていたのだ。
私は夫が冷蔵庫へ行った隙に、自分のグラスと姑のグラスを入れ替えた。
食卓につき、私は何事もない顔でワインサワーを飲んだ。
夫は私をじっと見ていたが、私は笑って「おいしい」と言った。
次の瞬間、姑が真っ赤な液体を吹き出した。
口元はたらこのように腫れ上がり、姑は悲鳴を上げて私に掴みかかろうとした。
私はその手を払いのけ、「作ったのは拓也さんです」と冷たく言った。
さらに夫に詰め寄り、「私に飲ませるつもりだったのよね」と追及した。
夫はしどろもどろになりながら、「太ったままだから、代謝を上げるために」と苦しい言い訳をした。
そこへ彩音が立ち上がった。
「仕事でうまくいかないからって、お母さんに八つ当たりして無視して、こんな嫌がらせまでして、幼稚すぎる」
さらに姑にも、「お母さんのご飯を取り上げるのはただの意地悪」と言い切った。
最後に父へ向かって、「そんなに偉そうに言うなら、自分の薄くなった頭も自覚して」と容赦なく刺した。
その言葉に、私はもう十分だと思えた。
私は台所から、あらかじめ用意していた離婚届を持ってきた。
「荷物もまとめています。別々の道を歩きましょう」
夫は慌てて弁解したが、彩音は「大事になるまで気づかなかった方が悪い」と切り捨てた。
追い詰められた夫は、責任を取ると言って自分でその激辛ワインサワーを一気に飲み、見事にたらこ唇になった。
彩音はその姿をスマホで撮ると、「お母さん、行こ」と私を連れて家を出た。
その後、私は実家に戻り、正式に離婚した。
元夫は職場でも無視を繰り返していたせいで結局浮かばれず、姑との二人暮らしでぎすぎすした毎日を送っているらしい。
一方の私は、今も歩いて通勤しながら新しい人生を始めた。
そして今は、苦労を知る優しい恋人と、穏やかな時間を少しずつ積み重ねている。