「里帰り出産で、しゅんとみささんが帰ってくるから、お前は出ていけ」
夫にそう言われ、私は耳を疑った。聞き返しても、夫は笑顔のまま「お前さえいなきゃうまくいく。前からお前みたいに正論を振りかざす女は嫌いだった」と言い放った。
私は敬子、55歳。小さなアパレル会社を経営している。定年退職した60歳の夫・年明は、退職後から生活がだらけ、暇を持て余しては私の家事に口を出すようになった。掃除ロボットも電子調理器も気に入らず、料理にも文句ばかり。自分では何もしないのに、私を見下す態度だけは強くなっていった。
そこへ、夫の連れ子である長男・しゅんの妻みささんの妊娠報告が入った。夫は初孫フィーバーを起こし、里帰り出産の準備に暴走した。だが準備も世話も私任せ。私が「やるなら自分でやって」と言うと、夫は逆上し、ついに私へ出ていけと言ったのだ。
私は翌朝すぐ引っ越し業者に連絡し、夫が泊まりで釣りに出た隙に荷物も家電も全部運び出した。
新居は仕事の縁で紹介してもらった新築だった。翌日、空っぽの部屋を見た夫から慌てて電話が来たが、私は「あなただけ出ていけと言ったのではなく、私が自分の物を持って出ただけ」と淡々と答えた。
その後、夫に呼ばれて元のマンションへ行くと、しゅん夫婦まで住み着いていた。私はその場で記入済みの離婚届を差し出した。夫は青ざめ、みささんは「一番迷惑してるのは私」と泣き出し、しゅんまで私に責任を押しつけてきた。
私はしゅんを見下ろし、はっきり言った。
「35歳のあなたたち夫婦の世話も、60歳の夫の世話も、私の責任じゃない」
その後、夫は離婚に応じた。しゅん夫婦はみささんの実家へ戻り、しゅんは後日「お母さんみたいな親になれるよう頑張る」と電話してきた。
私は今、新しい家で仕事を続けながら、ようやく自分の人生を穏やかに生きている。