優先席に座っていた私は、いつも通り静かに電車の揺れに身を任せていた。足には義足を装着しており、外見からは分かりにくいが、長時間の立位は難しい状態だった。
そのとき、向かいに立っていた中年男性が突然、鋭い声を上げた。
「おい!若いくせに座ってるんじゃない!立てよ!みっともない!」
車内の視線が一斉に集まり、空気が張り詰めた。私は一瞬だけ彼を見上げたが、何も言わなかった。ただ、ゆっくりと息を整えた。
そして次の瞬間、私は無言のまま義足の固定ベルトに手をかけた。
カチャリ、と小さな音が車内に響く。義足を外し、膝下がない現実をその場に晒すように、静かにそれを膝の上に置いた。
車内が凍りついたように静まり返る。
さっきまで怒鳴っていた男性の顔から、血の気が引いていくのが分かった。
「……見えなかったんだな」
私はそれだけを小さく呟いた。
男性は視線を逸らし、何も言えずに後ずさるようにその場を離れていった。周囲の乗客も言葉を失ったまま、ただ静かに視線を落としていた。