区役所の窓口で、離婚届受理証明書に印が押された瞬間、私と鈴木健太の五年間は完全に終わった。
「本当に考え直さないのか」
元夫は、まだ自分が私の人生を左右できると思っている顔でそう言った。私は静かに証明書をバッグへしまい、告げた。
「もう私の名前を呼ばないでください。気持ち悪いので」
その直後、現れたのは元姑の佳代子だった。金色のアクセサリーを揺らしながら、彼女は親戚たちを引き連れ、勝ち誇ったように笑った。
「子どもも産めない中古品が、うちの健太を捨ててどうやって生きていくの?」
周囲がざわつく中、私は黙ってスマートフォンを取り出した。五年間、封印していた番号。財閥グループ会長である父への電話だった。
「お父さん。離婚が成立しました。ネクストコアテックの鈴木健太副社長を解任してください。それから、鈴木家のコネで入った二十六人も全員」
父の返事は短かった。
「五分で終わらせる」
その瞬間、健太のスマホが鳴り響いた。
続いて親戚たちのスマホも、次々と通知音を立てる。解任、解雇、口座凍結――。
さっきまで私を見下していた佳代子は、顔を真っ青にして地面に座り込んだ。
「会社は息子のものよ……!」
私は冷たく見下ろした。
「いいえ。最初から、私の父が支えていた会社です」
黒いロールスロイスが到着し、運転手が静かに扉を開ける。私は一度も振り返らず乗り込んだ。
鈴木家の悪夢は、まだ始まったばかりだった。