うちは住宅街にある小さなパン屋だ。
朝7時に店を開けると、
近所の人たちが焼き立てのパンを買いに来てくれる。
「ここの塩パン好きなのよ」
「今日はメロンパンある?」
そんな会話が毎日聞こえる、
本当に普通の店だった。
でも最近、
ずっと困っていることがあった。
店の前の無断駐車だ。
うちは小さい店だから、
駐車スペースも数台しかない。
本来なら、
パンを買いに来たお客さんのための場所だ。
なのに知らない車が停まり、
何時間も戻ってこない。
しかも店には一度も入ってこない。
最初は、
「たまたまかな」
と思っていた。
でも違った。
同じ車が何度も来る。
近くの会社員らしい男だった。
そのせいで、
常連さんが車を停められず帰ることも増えた。
「最近停めづらいねぇ」
そう言われるたび、
本当に申し訳なかった。
だから私は、
できるだけ穏やかに対応しようと思った。
紙にこう書いた。
『ここはお客様用駐車場です。
無断駐車はご遠慮ください』
そしてワイパーに挟んだ。
普通なら、
これで終わると思う。
でも翌朝、
店に来た私は言葉を失った。
また同じ車が停まっていた。
しかも昨日の紙は、
ぐしゃぐしゃに丸められて、
地面に捨てられていた。
その瞬間、
頭の中で何かが切れた。
あぁ、
この人、
完全になめてるんだなって。
私は新しい紙に、
前より強めに書いた。
『無断駐車は迷惑です。
次回は警察へ通報します』
そして今度は、
見えないフリできないよう、
窓に貼った。
数時間後。
男が戻ってきた。
貼り紙を見た瞬間、
顔を真っ赤にして怒鳴った。
「こんなの貼っていいと思ってるんですか!?」
店の前の空気が一気に張り詰めた。
でも私は冷静に答えた。
「ここ、うちの駐車場なんです」
すると男は、
さらに声を荒げた。
「少し停めただけだろ!」
私は地面を指差した。
昨日の紙がまだ落ちていたからだ。
男は一瞬黙った。
でも次の瞬間、
無言で車に乗り込もうとした。
私はその前に、
タイヤロックをかけた。
男、
完全にブチ切れ。
「は!?何やってんだ!!」
「警察呼びますからね!!」
私は静かに答えた。
「どうぞ」
30分後、
本当に警察が来た。
事情を聞いた警察官は、
まず駐車場の表示を確認した。
そして男に聞いた。
「ここ、お店の駐車場ですよね?」
男はさっきまでの勢いが消えて、
小さく答えた。
「……はい」
警察官はため息をつきながら、
私に言った。
「どうされますか?」
私は男を見て言った。
「ちゃんと謝るなら、
ロック外します」
周りにはお客さんもいた。
警察官もいる。
男はしばらく黙っていた。
でも最後には、
悔しそうに頭を下げた。
「……すみませんでした」
私は無言でロックを外した。
男はそのまま逃げるように車を出し、
二度と来なくなった。
結局、
こういう人って。
“迷惑をかけた”じゃなく、
“自分が恥をかいた”瞬間にしか、
反省しないんだと思う。