車の座席の下に、ぐしゃっと折れたレシートが落ちていた。何気なく拾い上げた私は、その瞬間、心臓がドクンと跳ねた。そこには「しゃぶしゃぶ 二名様」の文字。しかも日付は、夫が「今日は一日仕事」と言っていた日だった。
私は子どもと家にいたはずなのに——。その瞬間、嫌な想像が頭をよぎる。実は夫には前科がある。だからこそ、「またなの?」という疑いが、一気に膨らんでしまった。
でも、ここで感情的になったら負けだと思った。私は深呼吸してレシートの写真を撮り、時間や店舗名を確認しながら、夫の行動と静かに照らし合わせ始めた。
とはいえ、頭の中はずっと落ち着かなかった。
もし本当に浮気だったら?
子どもはどうなる?
私はどうする?
考えれば考えるほど、
胸の奥がザワザワする。
でも同時に、
「決定的な証拠もないのに暴走したくない」
という気持ちもあった。
だから私は、
まず夫にLINEを送った。
『今日、このレシート見つけたんだけど』
数秒迷ってから、
送信ボタンを押す。
既読はすぐについた。
でも返信が来ない。
その時間が、
異常に長く感じた。
私は子どもと遊びながらも、
ずっとスマホを気にしていた。
10分後。
やっと返信が来た。
『あー、それ同僚のやつ』
『昼休みに一緒に店入ったけど、
俺は途中で戻った』
『レシートだけ車に落ちてたっぽい』
正直、
少しホッとした。
でも、
まだ完全には安心できない。
私はレシートをもう一度見た。
時間。
人数。
店舗。
全部確認する。
そして思った。
——ここまで来たなら、
最後まで確認しよう。
私は店に電話した。
「すみません、
少し確認したいことがあって…」
店員さんは丁寧に対応してくれた。
私はレシートの日時を伝え、
状況を説明した。
もちろん個人情報までは聞けない。
でも、
確認の途中で店員さんが言った。
「あ、その時間帯、
団体利用が重なってまして」
「二名で来店された方、
かなり多かったんですよ」
その瞬間、
少し肩の力が抜けた。
さらに夫に確認すると、
その日は会社の外回りチームで動いていたことも分かった。
最終的に、
全部つながった。
浮気ではなかった。
ただ、
レシートが車に落ちていただけ。
それだけだった。
私はソファに座り込み、
深く息を吐いた。
安心した。
でも同時に、
自分がここまで疑ってしまったことに、
少しだけ疲れた。
夜、
帰宅した夫が苦笑いしながら言った。
「なんか探偵みたいだったな」
私は思わず笑った。
「前科ある人が悪い」
そう返すと、
夫は気まずそうに黙った。
でも今回、
ひとつだけ分かったことがある。
疑うことより難しいのは、
“感情だけで決めつけないこと”なんだと思う。
あの時、
怒鳴っていたら。
勝手に決めつけていたら。
たぶん、
もっと面倒なことになっていた。
もちろん、
何もないのが一番いい。
でも、
不安になった時ほど、
冷静さって大事なんだなと、
今回すごく思った。