
両親が離婚して、半年が経った。
別れる日、母は私の手を握って言った。
「いつでも電話して。あなたの味方だから」
私は、その言葉を信じていた。
でも——
最初に送ったLINEは未読のまま。
電話も出ない。
一週間、二週間、
気づけば一ヶ月。
呼び出し音のあと、切れる音だけが残った。
その瞬間、分かった。
——拒否されてる。
胸の奥が、すっと冷えた。
なのに母のSNSには、
笑顔でカフェにいる写真が上がっている。
「元気だよ」みたいな顔で。
私は父に聞いた。
すると、淡々と言われた。
「もう連絡するな。会いたくないらしい」
頭が真っ白になった。
理由も、説明もなかった。
ただ、
“いらない”って言われた気がした。
どうしても納得できなくて、
母の旧住所に行った。
でももう、そこに母はいなかった。
知らない名前の表札。
インターホン越しに「もう引っ越しました」と言われた。
帰り道、街の音がやけにうるさく感じた。
家に戻ると、
父がようやく口を開いた。
「母さん、心療内科に通ってる」
「お前に言うと、抱え込むと思ってた」
その一言で、
今度は違う意味で頭が止まった。
知らなかった。
何も知らされていなかった。
怒りと同時に、
怖さが込み上げてきた。
その夜、短い手紙を書いた。
「返事はいらない」
「ただ、生きてるって教えて」
それだけ書いて、送った。
三日後、
知らない番号から電話が来た。
出ると、母の声だった。
「……ごめん」
それだけで、
涙が止まらなかった。
母は言った。
「あなたの声を聞くと、戻りたくなるのに戻れなくて…」
「ちゃんと向き合えない自分が怖くて、逃げてた」
SNSの笑顔は、
全部“元気なふり”だった。
私はしばらく黙って、
やっと言えた。
「戻ってほしいんじゃない」
「ただ、私を“いなかったこと”にしないで」
少しの沈黙のあと、
母が小さく言った。
「…月に一回でも、電話していい?」
私はすぐには答えられなかった。
また消えるんじゃないかって、
怖かったから。
でも、
一つだけ条件を出した。
「出られない日は、スタンプ一個でいい」
「無視だけはしないで」
母は、静かに「うん」と言った。
次の日、
LINEに猫のスタンプが届いた。
たったそれだけなのに、
私は泣いた。
家族は簡単に壊れる。
でも——
関係は、
簡単には終わらないんだと思った。