10年前、息子の嫁と駆け落ちして消えた元夫・悟から、ある日突然電話が来た。
開口一番、「お前、まだ実家に住んでるんだろ。悪いけど出ていってくれ」と言う。
私は耳を疑った。
10年ぶりに連絡してきたと思えば、自分と浮気相手の住む場所を確保するために、私へ家を明け渡せと言ってきたのだ。
怒りを抑えながら、私は静かに答えた。
「え? 実家はもうないけど」
私は上条実り、60歳。
私立学校で非常勤講師をしている。
悟とは大学時代に学習塾で出会い、結婚し、息子の真那を育てた。
だが10年前、真那の妻・さよと悟の不倫が発覚した。
真那が渋谷のホテル街で二人を目撃し、証拠写真まで見せてきたのだ。
問い詰めると、悟はあっさり不倫を認め、挙げ句に「もうお前は用済みだ。離婚してくれ」と言い放った。
翌日には荷物を持ち出し、離婚届だけ残して姿を消した。
さよも真那に離婚届を置いて失踪し、私は離婚後、家を売って新しい家へ移った。
それから10年。
私は仕事に打ち込み、真那も立ち直り、ようやく穏やかな日々を取り戻していた。
そこへ悟が現れ、「さよに子どもができて金が苦しい。実家に住ませろ」と言い出したのだ。
だが、私の両親はすでに他界していた。
しかも生前、悟とさよの裏切りに激怒した両親は、遺言で実家も遺産もすべて私に残すよう手続きしていた。
私はその家を相続し、一人では広すぎたため売却していた。
もちろん、悟たちに渡すつもりなど最初からなかった。
その事実を知った悟は逆上し、遺産はどうしたと怒鳴った。
さらに、さよまで電話してきて金の話しかしなかった。
私は二人に呆れ果てた。
その後、真那は興信所を使って悟たちの現状を調べ上げた。
すると悟は、さよ以外にも七人の女と浮気していた。
私たちは匿名でその女たちに悟の居場所を知らせた。
結果、アパートは修羅場となり、警察沙汰にまで発展した。
悟はさよとも破局し、既婚女性たちの夫から慰謝料を請求され、すべてを失った。
さよもまた借金まみれになり、姿を消した。
こうして10年越しの因縁に決着がついた。
私は再び静かな日常へ戻り、真那も新しい幸せへ向かって歩き出している。