父が事故で亡くなったのは、あまりにも突然だった。
それまで家の中で感情の起伏が激しく、いわゆる“ヒス気味”だった母は、父の死を境にまるで別人のように穏やかになっていった。声を荒げることもなく、静かに家事をこなし、私に対しても驚くほど落ち着いた態度を見せるようになった。
正直、私はその変化に違和感を覚えていた。
(……嫌な感じだな)
悲しみが癒えたというより、どこか“別の理由”があるような、説明のつかない空気を感じていたからだ。
ある日、私は父の遺品を整理することになった。押し入れの奥からスーツケースや書類箱を取り出し、一つひとつ確認していく作業は、思った以上に重苦しいものだった。
その中で、私は一冊のファイルに手を止めた。
それは父が残していたメモと記録が綴じられたものだった。仕事の資料とは違い、家庭内の出来事や日々の記録のような内容が細かく書かれている。
ページをめくるたびに、私は言葉を失っていった。
そこには、母の感情が激しく揺れていた理由、そして父が生前ずっと“ある対応”を続けていた記録が残されていたのだ。
私は思わず呟いた。
「これが理由か…」
それは単なる性格の問題ではなかった。父は家の中で起きていた問題を、静かに整理し続けていたのだ。
さらに読み進めると、母が今のように穏やかになった“決定的な出来事”が記されていた。
それは偶然でも変化でもなく、父が残した明確な“対処の結果”だった。
私はその記録を閉じることができず、ただ静かに立ち尽くしていた。