日帰り温泉に行った日のことです。
湯上がりに脱衣所の鏡の前で、私は持参したヘアアイロンを使って髪を整えていました。
湿気で髪が広がりやすいので、旅行や温泉には必ず自分のものを持っていきます。
すると背後から、突然きつい声が飛んできました。
「ちょっと、いつまで使ってるの!」
振り返ると、小さな女の子を連れたママさんが、腕を組んで立っていました。
「みんな待ってるんだから、早くしなさいよ。あんた一人のものじゃないでしょ!」
私は一瞬、何を言われているのか分かりませんでした。
そして落ち着いて答えました。
「これ、私個人のヘアアイロンですけど」
その瞬間、ママさんの表情が固まりました。
しかし謝るどころか、彼女はさらに声を荒げました。
「だったら貸してくれてもいいじゃない。子どもの髪を乾かしたいのよ」
私は首を横に振りました。
「高温になりますし、火傷したら責任が取れません。貸せません」
するとママさんは不満そうに舌打ちし、「ケチね」と吐き捨てました。
周囲の人たちもその声に気づき、こちらを見始めました。
すると近くにいた年配の女性が静かに言いました。
「自分の物を貸さないだけでケチ扱いはおかしいでしょう」
その一言で、ママさんは一気に顔を赤くしました。
さらにスタッフさんが来て、「備え付けのドライヤー以外の貸し借りはトラブル防止のためご遠慮ください」と説明してくれました。
ママさんは何も言い返せず、子どもの手を引いてその場を離れていきました。
私はようやく髪を整え終え、深く息を吐きました。
公共の場所だからこそ、他人の物まで共有物だと思ってはいけない。
その当たり前のことを、強く実感した出来事でした。