電車の中で、60代くらいの夫婦が携帯を握りしめ、真っ青な顔で立っていた。
奥さんは震える声で「間に合うかな…」とつぶやき、旦那さんは乗換案内を何度も見ていた。
どうやら病院からの連絡で、急いで向かっているらしい。
誰かが席を譲り、別の人が最短ルートを調べ、若い男性が「次の駅で駅員さん呼びます」と走った。
車内の人たちは自然に道を開けた。
誰も文句を言わない。
誰も急かさない。
ただ全員が同じことを思っていた。
「どうか、間に合ってほしい」
降り際、奥さんは涙をこらえながら何度も頭を下げた。
見知らぬ人たちの優しさで、電車の中が一つになった瞬間だった。