亡くなった息子のミニカーが消えた。“子供の遺品です”と貼り紙した翌日——
2026/05/07

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あの日の夕方。

私は玄関の前で立ち止まった。

いつも端に置いてあるはずの、
小さな赤いミニカーがなかった。

胸がざわついた。

息子が生きていた頃、
毎日のように握っていた車。

「ブーブー!」

そう笑いながら、
玄関前を走らせていた。

どこへ行く時も持っていた。

だから息子が亡くなってからも、
私はそのミニカーだけは片付けられなかった。

玄関に置いておくと、
まだそこに息子がいる気がしたから。

でも——

その日、
なくなっていた。

最初は勘違いかと思った。

自分で移動したのかもしれない。

家中を探した。

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棚。
机。
靴箱。

でもどこにもない。

風で飛ばされたのかと思って、
外も探した。

ない。

その瞬間、
嫌な考えが浮かんだ。

誰かが持っていったのかもしれない。

住宅街だから、
近所の子どももよく通る。

遊び半分だったのかもしれない。

でも、
怒る気にはなれなかった。

ただ返してほしかった。

それだけだった。

私は紙を一枚用意した。

そして玄関に貼った。

「お願い。返してください。子供の遺品です」

書きながら、

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手が震えた。

“遺品”という言葉を、
自分で書くのがまだ苦しかった。

次の日。

近所を歩いている時だった。

向かいの家の庭で、
小さな男の子が遊んでいた。

その手を見た瞬間、
心臓が止まりそうになった。

赤いミニカー。

間違いない。

息子の車だった。

私はゆっくり近づいた。

怒鳴らないように、
必死だった。

「その車、どこで見つけたの?」

男の子は無邪気に答えた。

「お母さんがくれた!」

私はインターホンを押した。

出てきたのは若いお母さんだった。

私はできるだけ落ち着いた声で言った。

「すみません、そのミニカーなんですが…うちの玄関に置いてあった物なんです」

すると彼女はすぐ言った。

「え?違いますよ」

「うちの子が拾ったんです」

その瞬間、
胸が少し痛んだ。

でも私は静かに言った。

「その車の裏、見てもらえますか」

彼女は怪訝そうに、
ミニカーをひっくり返した。

そこには小さく、
油性ペンで名前が書いてあった。

息子の名前。

自分の物だって分かるように、
昔、息子が一生懸命書いた文字。

その瞬間、
彼女の表情が止まった。

沈黙。

私はゆっくり言った。

「息子が書いたんです」

「大事にしていた車なんです」

彼女は何も言えなくなっていた。

そして小さな声で言った。

「……知りませんでした」

私は首を振った。

「いいんです」

本当に、
怒りはなかった。

ただ悲しかった。

私はミニカーを受け取った。

小さな車を手に乗せた瞬間、
胸が締め付けられた。

玄関で笑っていた息子の顔が、
一気によみがえったから。

帰宅して、
私は貼り紙を外した。

そこにはまだ、
こう書いてあった。

「子供の遺品です」

その文字を見た時、
改めて思った。

人は時々、
知らないうちに誰かの大切なものを傷つけてしまう。

それが安い玩具でも、

誰かにとっては、
世界で一番大事な宝物かもしれない。

もし最初から、
あのミニカーが“遺品”だと知っていたら。

きっと、
違う結果になっていたと思う。

私はミニカーを、
そっと玄関の棚へ戻した。

そして心の中で、
息子に言った。

「帰ってきたよ。」

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