私の名前は山口ひろ子、43歳の専業主婦。
その日、夫のアキラが突然、私の前で土下座した。
「20歳の愛人が妊娠した!離婚してくれ!」
あまりにも唐突な告白だったが、不思議と私は取り乱さなかった。むしろ心のどこかで「やっぱりね」と思っていたのかもしれない。私は静かに引き出しを開け、用意していた紙をテーブルに置いた。
「はい、離婚届。これで終わりね。」
アキラは目を丸くして固まった。
まさか私があっさり受け入れるとは思っていなかったのだろう。
「じゃあ荷物まとめるわ。娘以外は連れていくね。」
そう言った瞬間、アキラが顔をしかめた。
「は?娘も連れていけよ。」
その言葉に、私は思わず小さく笑ってしまった。
「無理よ。だってこの子は……」
私がそこまで言うと、アキラの顔から血の気が引いた。
「この子は、あなたの子じゃないから。
」
部屋の空気が一瞬で凍りついた。
アキラは口を開けたまま、言葉を失っている。
もちろん、桃子は戸惑った顔をしていた。突然の大人同士の会話に、どう反応していいのか分からない様子だった。私はそっと娘の肩を抱き寄せる。
「大丈夫よ。ママと一緒に行こう。」
アキラはまだ理解できないまま、呆然と座り込んでいた。
自分だけが裏切っていたつもりが、すべてを失う側になるとは思っていなかったのだろう。
こうして私の結婚生活は終わった。
でも、不思議と悲しさはなかった。
むしろ、長い嘘から解放された気がした。
桃子の手を握りながら、私は新しい人生へと歩き出した。