帰宅したら妻がヤクザといた。だが「コーヒー買ってこい」と言われ従った俺が、3分後に全員を沈黙させた話
2026/04/09

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玄関の鍵を回した瞬間、胸の奥が嫌な音を立てた。
家の中から、息の乱れた声と、低く濁った笑い声が漏れていたからだ。

私は靴を脱ぎ、廊下の電気もつけずに進んだ。
扉の隙間から見えたのは――乱れた衣服、倒れたクッション、そして妻・由美が、見知らぬ男に抱き寄せられている光景だった。

思考が止まる。

だが男はすぐに私に気づき、口角を歪めた。刺青の覗く腕、冷たい目。
部屋の奥には同じ匂いの男たち。完全に“その筋”だ。

「おっさん、邪魔だ。コーヒー買ってこいよw」

視線が集まる。試されているのが分かった。

私は一度だけ息を吸い、平坦に答えた。
「了解です」

怒鳴ることも殴ることもできた。

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だが、それは相手の土俵だ。

私は踵を返し、外へ出た。

冷たい空気が頭を冷やす。

――なぜ由美がこんな連中といるのか
――選ばれたのか、それとも利用されているのか

だが今考えるべきはそこではない。

私はコンビニでコーヒーを買い、外でスマホを取り出した。

《家に客。至急》

それだけ送信する。

数秒後、返信は来た。

――了解。

私はそのまま、何もなかった顔で家に戻った。

扉を開けると、男たちはまだ余裕の顔をしていた。
黒田と名乗った男が、コーヒーを奪うように手を伸ばす。

その瞬間だった。

ソファにいた幹部格の一人が、私の顔を見て凍りついた。

「……ま、待て」

空気が変わる。

「おい黒田……その人……」

黒田は苛立って振り返る。

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「何だよ、こんなおっさ――」

言葉が止まった。

私の左手の古い傷。
そして胸元に覗く小さな徽章。

それを見た瞬間、全員の顔色が変わった。

「……神崎、さん……?」

誰かが呟く。

私はコーヒーをテーブルに置き、スマホをその隣に置いた。

画面には、通話中の表示。

『神崎、位置確認。到着まで三分』

その声が響いた瞬間、幹部の一人が膝から崩れ落ちた。

黒田の顔が引き攣る。

さっきまでの“余裕”は完全に消えていた。

私は妻に視線を向けた。

「由美」

声は穏やかだった。

「今すぐ裁かない。ただ覚えておけ」

彼女の唇が震える。

「この家は、家族の避難場所として用意した場所だ」

一瞬の間。

「そこに、最悪の危険を招き入れた」

言葉が落ちる。

玄関の方から、足音。

複数。

規則正しく、迷いがない。

ドアが開く。

黒服の男たちが無言で入ってきた。

誰も動かない。

誰も声を出さない。

理解しているからだ。

ここで何かすれば、終わると。

黒田は最後まで虚勢を張ろうとした。

だが声は出ない。

私は一言だけ告げた。

「コーヒー、熱いので気をつけて」

そして、

「ここは二度と踏むな」

黒田は何も言えず、ただ頷いた。

嵐は、最初は激しかった。

だが終わりは――静かだった。

連中が去った後、部屋には沈黙だけが残る。

私は玄関へ向かい、鍵をかけた。

背後で、由美が何か言おうとする。

だが言葉にならない。

私は振り返らなかった。

次にこの扉を開ける時、
ここはもう“夫婦の家”ではない。

その事実だけが、静かに確定していた。

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