私の社員証がなくなったのは、社内イベントの翌日のことだった。=
バッグの中を何度探しても見つからず、念のため総務に紛失届を出して、すぐに利用停止の手続きをしてもらった。
その日の夕方、警備室から内線が入った。
「社員証を使って入ろうとしている女性がいます。お知り合いですか?」
監視カメラを確認すると、そこに映っていたのは、近所で何度か顔を合わせたことのあるママ友だった。
彼女は受付で困った顔を作りながら言っていた。
「カードが壊れているみたいで、エラーが出て入れなくて……」
どうやら、私の社員証を拾ったふりではなく、最初から使うつもりで持ち去ったらしい。
しかも彼女が入ろうとしていたのは、私の権限では通れない区域だった。
つまり、カードをかざした瞬間にエラーが出るのは当然だった。
警備員はにこやかに対応した。
「そうですか。では確認しますので、こちらへどうぞ」
彼女はきっと、「しょうがないですね」と通してもらえると思っていたのだろう。
しかし案内されたのは中ではなく、警備室だった。
そこで社員証の名義を確認され、本人確認を求められた瞬間、彼女の顔色はみるみる変わった。
「これは友達に借りただけで……」
その言い訳を聞いた警備員は、さらに穏やかに言った。
「社員証の貸し借りも、無断使用も重大な問題です」
結局、彼女は会社に正式に謝罪することになり、警察にも相談された。
後日、彼女から「大げさにしないで」と連絡が来たが、私は一言だけ返した。
「人の社員証で会社に入ろうとした時点で、大げさでは済みません」
それ以来、彼女は私の前に現れなくなった。
盗んだ社員証で入れると思った場所は、会社ではなく、自分の信用を失う入口だった。