数年前、俺の実家を建て替えることになった。
だが、実家の前の道は狭く、工事車両を入れるにはどうしても隣人の土地を一時的に借りる必要があった。
俺は菓子折りを持って隣家を訪ね、頭を下げてお願いした。
すると隣人は、こちらを見もせずに冷たい声で言った。
「なんでうちが協力しなきゃいけないの?洗濯物も干してるし、嫌だね」
まったく取り合う気はなかった。
俺は困ったが、無理に頼むこともできず、結局別の方法で土地を確保して家を建てることになった。
それから数ヶ月後。
新しい家も完成し、生活が落ち着き始めた頃だった。
今度は隣人のほうから連絡が来た。
アパートのトタンを張り替える工事をするため、足場を組む間だけ、うちの土地を貸してほしいというのだ。
俺は正直、腹が立った。
数ヶ月前、こちらが頼んだ時は突っぱねたくせに、自分たちが困ると平然と頼んでくる。
だが親父は、少し考えた後、静かに言った。
「ちゃんと片付けてくれるなら貸そう」
そして工事が始まった。
数日後、工事が終わったと聞き、様子を見に行った俺は言葉を失った。
土地にはゴミや廃材が散乱し、約束された片付けはされていなかった。
俺はすぐに文句を言いに行こうとした。
しかし親父は、「近所付き合いを悪くしたくない」と言って、一人で黙々と片付け始めた。
その姿を見て、俺は悔しくてたまらなかった。
なぜ、約束を破った相手ではなく、こちらが我慢しなければならないのか。
しかも隣人から謝罪は一切なかった。
片付けたことを知っているのかどうかすら怪しかった。
もともと隣人一家は評判が悪かった。
主人は会社で偉い立場らしいが、普段から子供や老人相手にもクラクションを鳴らすような人だった。
娘にも問題があると噂され、隣のアパートでは過去に火事が起き、亡くなった人までいた。
そんな相手だったから、俺は最後にもう一度だけ話をしようと思った。
だが隣人は平然と肩をすくめて言った。
「業者が勝手にやったことだから、業者に言ってくれ」
その瞬間、俺の中で何かが切れた。
もうこの人たちに常識を求めても無駄だと悟った。
結局、親父が全部片付けてしまった以上、それ以上追及することもできなかった。
悔しさは残った。
だが同時に、隣人とは適切な距離を保つことが何より大切なのだと痛感した。
もし次に同じようなお願いをされても、今度はきっぱり断ろう。