会社が一年で最も忙しい時期だったある日、私は祖母が亡くなったという連絡を受けた。突然の訃報に頭が真っ白になりながらも、私は家族として葬儀に参列するため、有給休暇を申請した。これまで真面目に働いてきた自負もあり、上司も事情を理解してくれるだろうと思っていた。
数日後。葬儀を終えて出社した私は、席に着く前に上司から呼び止められた。上司は周囲の社員が聞こえる場所で、わざとらしくため息をつきながら言った。
「次、死にそうな人の葬式は先に済ませておいてくれないか?」「ババアの葬式ぐらいで有給使うとか、仕事舐めてるって会社のみんな言ってたぞ」
私は言葉を失った。祖母を失った悲しみより、その言葉の冷たさに胸が凍りついた。何か言い返したかったが、喉が詰まり、結局何も言えなかった。
その夜、自宅に戻っても怒りは消えなかった。悔しさで眠れず、私はずっと上司の言葉を思い返していた。そして翌週の月曜日、全社員が集まる朝礼の日。
私は静かに前へ出た。
上司が怪訝そうな顔でこちらを見る。私は深く息を吸い込み、大声で頭を下げた。
「祖母の葬儀程度で有給を使用するという、社会人にあるまじき非常識な行動を取り、誠に申し訳ございませんでした!」
フロアが一瞬で静まり返った。誰も声を出さなかった。けれど社員たちの視線は、一斉に上司へ向いていた。
上司は顔を真っ赤にしていたが、何も言い返せなかった。それから少しずつ、上司は社内で孤立していった。もともと横暴な態度を嫌っていた社員も多かったらしい。
やがて上司は鬱を患い、自主退職した。その後、宗教にのめり込み、家族とも疎遠になり、精神病院に入院したという噂まで流れてきた。
後日、飲み会で元上司の話題が出た。誰かが「あの人、自分で自分の人生壊したよな」と呟いた。私はグラスを見つめながら、静かに息を吐いた。
あの日の朝礼がどれほど影響したのかは分からない。それでも私は、自分の尊厳を守るために声を上げたことだけは、今でも後悔していない。